私
「カナ、新しい家に
引っ越す準備はできた?」
カナ
「うん!楽しみだね、ママ」
私たちは、慰謝料を元手に
新しい家を購入した。
小さいけれど、
明るくて居心地の良い家だ。
引っ越しの日、母も
手伝いに来てくれた。
母
「トウ子、この家素敵ね。
明るくて開放的で」
私
「でしょう?気に入ったの」
荷物を運び入れながら、
ふと思い出した。
タケシとの生活では、こんな風に
家族で協力し合うことはなかった。
彼は常に自分のことで精一杯で、
家族のことを
顧みることはなかったのだ。
新しい家での生活が始まり、
私たちは
少しずつ前を向いて歩き始めた。
私は在宅ワーカーとしての
仕事を本格的に始めた。
最初は慣れないことばかりで
大変だったが、
徐々に仕事にも慣れていった。
ある日、仕事をしていると、
カナが学校から帰ってきた。
カナ
「ただいま、ママ」
私
「おかえり、カナ。
今日は学校どうだった?」
カナ
「うん、楽しかった!
それでね…」
娘が学校での出来事を楽しそうに
話す姿を見ていると、
胸が温かくなった。
タケシがいなくなって、むしろ
家族の絆は深まったように感じる。
週末には、義両親も
遊びに来てくれるようになった。
義母
「トウ子さん、お邪魔します」
義父
「久しぶりだね、カナ。
大きくなったな」
カナ
「おじいちゃん、
おばあちゃん!」
義両親は、タケシのことを
本当に申し訳なく
思っているようだった。
でも、私は彼らを
責める気持ちはない。
むしろ、こうして家族として
付き合い続けてくれることに
感謝している。
ふと、タケシのことを思い出した。
あの日以来、彼からの
連絡は一切ない。
友人のサオリから
聞いた話によると、タケシは
会社を辞め、遠くの町に
引っ越したらしい。