私は自分の靴をしまい、
玄関脇の納戸に身を潜めて
夫の帰宅を待った。
夫が帰宅してすぐにセイラも来た。
まだだ、まだ出ていっちゃダメ…。
そして密かに下準備をしつつ、
クルミからの合図を待った。
私たちの寝室はクルミの部屋の
向かい側にある。
だから、クルミがその様子を
伺うことなど容易なのだ。
いよいよクルミから
LINEで合図が入った。
いよいよ行為を始めたらしい。
本当は娘にこんな役を
させたくはなかったけど、
本人もセイラと夫を
仕留められるならと
寧ろ乗り気だった。
私はビデオカメラを
片手に寝室へ凸。
ちなみに我が家の部屋で
鍵がついているのは
トイレとお風呂だけだ。
心臓が耳元で激しく
鼓動を打っている。
手が少し震えている。
でも、今ここで
躊躇うわけにはいかない。
深呼吸をして、ゆっくりと
ドアノブに手をかける。
冷たい金属の感触が、
この状況の現実味を増す。
一瞬だけ、このまま
引き返そうかという弱気な
考えが頭をよぎる。
でも、クルミの
悲しみに満ちた顔を思い出し、
それを振り払う。