ウエスギ
「失礼します、奥さん」
という声がした。
同時に、大きくて暖かい手が
私の肩に触れ、その場から
一歩後ろに下がらせてくれた。
夫
「あ、ウエスギ!」
夫がその男性の名前を
嬉しそうに呼ぶ。
ウエスギさん、とは
夫の同期の中で出世頭と
言われている男性だ。
甘いマスクと落ち着いた
テノールの美声で、女性人気も
すごいのだとか。
かつて夫が、
夫
「どう頑張ったって、
ウエスギには
敵わないんだよなぁ」
と羨望と嫉妬が混ざったような
ことを言っていた覚えがある。
夫
「ウエスギからも、
うちの嫁に言ってやってよ!
デブじゃ話にならん、てww」
と夫が話しかけると、
ウエスギさんは
低い声で反論した。
ウエスギ
「…お前さ、自分の
子どもを毎日必死で
育ててくれる女性に対して、
よくも、平気で
そんな口が利けたもんだな」
私を庇う発言に、
夫に便乗していた人たちが
少しだけ
バツの悪そうな表情をした。
夫
「おいおいw
こんなのは酒の場の
冗談じゃんか?ww
本気にスンナって」
ウエスギ
「冗談って…
お前、本気か?お前たちが
暴言を吐いている間、奥さんは
ずっと辛そうな顔してたけど?
気付いてた?」