玄関を開けると、
静寂が漂う家の中に違和感が
広がった。
ヒトシが小さく呟いた。
ヒトシ
「ああ…ミキの靴」
脱ぎ捨てられた
ミキのハイヒールが、
玄関に無造作に置かれていた。
その光景に、私は心の中で
冷ややかに思った。
どれだけ
我慢できないのだろうか。
リビングには2人の姿はない。
ということは、やっぱり…
私とヒトシは
無言で視線を交わし、
息を潜めて
2階の寝室へと向かった。
階段を上がるにつれ、
かすかに漏れ聞こえてくる声。
あの声だ。
私とヒトシは
再び目を合わせ、
深く頷き合った。
ヒトシが合図を送ると同時に、
私たちは勢いよく
寝室のドアを開けた。
ミキ
「いやぁああああああ!」
夫
「わぁああああああああ!」
あからさまに
親密な状況だった。
夫とミキは、突然開いたドアに
驚いて絶叫した。
シーツを掴んで
必死に体を隠そうとする2人。
その姿は滑稽で、
同時に哀れだった。
ヒトシは一瞬言葉を失い、
顔をしかめた。
そして、深いため息の後、
声を張り上げた。
ヒトシ
「そこを動くな!
今度という今度は
絶対に許さない!」