リビングに足を踏み入れた瞬間
あの日の光景が鮮明に蘇った。
全裸で正座する夫とミキの姿。
ヒトシの怒りに満ちた表情。
ダメ…吐きそう…
胃の中がぐるぐると回り、
喉元まで胃液が上がってくる。
私
「ごめん、ちょっと…」
私は慌ててトイレに
駆け込んだ。
便器に顔を近づけ、
何度か空えずきをする。
夫
「キヌ子!大丈夫か?」
ドアの向こうから
夫の声がする。
心配そうな声音に、
かえって苛立ちを覚える。
夫
「もしかして…」
ドアを開けると、
夫の顔が輝いていた。
期待に満ちた目で
私を見つめている。
夫
「妊娠したのか!?」
その言葉に、
私の中で何かが切れた。
冗談じゃない。
こんな状況で、
よくそんなこと…
夫の顔が、
ナメクジのように見えてくる。
かつては大好きだった人。
でも今は、吐き気を
催すだけの存在。
私
「違う。車酔い」
精一杯の冷たさを
込めて言い放つ。
夫の表情が曇るのを見て、
少しだけ満足感を覚えた。