私
「ううん、気にしないで。
兄さんが良くなるのが
一番だから」
兄の言葉に、苦笑いを
浮かべるのが精一杯だった。
その後の4日間、私の心は常に
複雑な思いで満ちていた。
兄の世話をしながらも、
頭の中では夫の不義と、
その後の完璧すぎる対応が
交錯し続けた。
そして4日後、
夫が迎えに来た。
夫
「お疲れさま。義兄さん、
もう大丈夫そう?」
兄
「ああ、随分良くなったよ。
キヌ子には
本当に世話になった」
私
「兄さん、無理しないでね。
また来るから」
別れの言葉を交わし、
夫と共に家路につく。
車の中で、夫は
何事もなかったかのように
日常会話を続けた。
私は相槌を打ちながら、
これから
どう向き合えばいいのか、
その答えを必死に探していた。
車の中で、夫との会話に
相槌を打ちながら、
私の心は重く沈んでいた。
本音を言えば、
兄の元にもっと長く
身を寄せていたかった。
夫と二人きりで過ごす日常に
戻るのが、恐ろしくて
たまらなかった。
自宅に到着し、玄関を開ける。
懐かしいはずの
我が家の匂いが、今は妙に
居心地悪く感じられる。