ケンジの苦悩を見ながら、
何も知らないかのように振る舞う。
この静かなリビングに漂う
緊張感の中で、
私は密かな満足感を覚えていた。
数日前、ミカが遠くの街へ移ること
を決意したという情報を得た。
これで、私とケンジの間に
入る者はいなくなる。
そして今、その結果が
ケンジの姿に如実に表れている。
夫の苦悩を目の当たりにしながら、
私は静かに
この勝利を味わった。
その日、ケンジは普段より
早く帰宅した。
玄関に入る夫の足取りは重く、
顔には見慣れない
疲れの色が浮かんでいた。
私
「おかえりなさい。
あれ?今日は早いんだね」
夫
「ああ…うん」
夫の声には、何か言いよどむような
様子が感じられた。
リビングに入ったケンジは、
しばらく黙ったまま落ち着かない
様子でソファに座った。
私
「何かあった?」
ケンジは深呼吸をして、
ゆっくりと口を開いた。
夫
「トウ子…実は、話があるんだ」
私は夫の様子を注意深く見ながら、
落ち着いた声で答えた。
私
「どうしたの?
珍しく真剣な顔だね?」
ケンジは言葉を選びながら、
ゆっくりと話し始めた。
夫
「俺…過ちを犯したんだ。
…ミカという女性と…」
夫の告白を聞きながら、
私は複雑な思いに包まれた。
予想していた展開ではあったが、
実際に聞くと
胸が締め付けられる思いがした。