彼女の名前はミカ。20代後半。
優しそうな笑顔と、きれいな
長い髪が特徴的な女性だった。
私は彼女の生活を把握していった。
勤務先、通勤ルート、
よく行くカフェ、
休日に出かける場所。友人関係。
全てを記録し、頭に叩き込んだ。
「敵を知り己を知れば
百戦危うからず」
そう、彼女は私の敵なのだ。
そして、ある金曜の夜。
私の最悪の予感が
的中する瞬間が訪れた。
いつものように車内から、
ミカのマンションを
見張っていた私の目に、
見慣れた姿が…
ケンジだ。
私の目の前で、愛する夫が、
ミカのマンションに入っていく。
スーツ姿で、手には花束。
私の誕生日にさえ、
忘れがちな花を。
その瞬間、私の中で何かが切れた。
激しい怒りと復讐心が
全身を燃やし尽くした。
理性が吹き飛び、私の中で
何かが決定的に壊れた気がした。
そのとき、
スマートフォンが鳴った。
ケンジから…
夫
「悪い、今日も遅くなりそうだ。
会議が長引いて…」
私
「そう…大変だね。
いつ頃帰ってこれそう?」
夫
「うーん、11時過ぎになるかな。
夕飯はいいから、
先に寝ていてくれ」
私
「わかった。
気をつけて帰ってきてね」
穏やかな声で、優しく答える。
その声の裏には激しい怒りと
苦しみが潜んでいた。ケンジには
私の本当の感情が
伝わっていないはずだ。
表面上は冷静を保っているものの、
心の奥底では感情が
激しく渦を巻いていた。
電話を切った後、
私は長い間、動けずにいた。