そう思うと、また怒りが
込み上げてくる。
でも、まだ我慢。
私
「ただいま…」
静かな家に、
自分の声だけが響く。
これまでなら寂しく
感じたかもしれない。
でも今は、この静けさが
私に力をくれる。
冷蔵庫を開け、
夕食の準備を始める。
様々な感情が
胸の中でぐるぐると渦を巻く。
でも、表情は平静を保つ。
鏡に映る自分の顔を確認する。
演技は完璧。
誰にも、私の本当の気持ち
なんてわからないはず。
その夜、ジュンヤが
帰ってきたのは
夜中の2時過ぎだった。
ドアの開く音で
目が覚めた私は、しばらく
ベッドで息を潜めていた。
やがて、リビングに向かう
足音が聞こえてきた。
ジュンヤ
「た、ただいま…
まだ起きてたの?」
私は起き上がり、眠たそうな
顔を装って寝室を出た。
私
「ん…ただいま?
あ、おかえりなさい。
今、トイレに
行こうと思って…」
ジュンヤ
「ごめん、
仕事が長引いちゃって…」
私
「大丈夫だよ。お疲れ様。
お風呂、沸かしておいたけど、
もう…冷めちゃってるね。
温め直そうか?」
ジュンヤ
「ありがとう。
キヌコは優しいな。
でも大丈夫、このまま入るよ」
私
「そう…じゃあ、
おやすみなさい」
ジュンヤ
「ああ、おやすみ」
寝室に戻り、
ベッドに横たわる。
…嘘つき。
仕事なんかじゃないくせに。
あの女といたんでしょ?
電気を消した闇の中で
目を開けたまま、
ジュンヤが風呂場に
向かう音を聞いていた。