結婚後の初出勤、
朝の玄関で、
夫はそう言った。
確かに聞いているので、
承知した。
承知はしたけれど…
明け方にどたばた
帰って来て、洗濯物を
ランドリーバスケットに
放り込む。
着替えを手早く
ボストンバッグに詰め、
また慌ただしく出て行く。
まったくと言っていいほど、
私を振り向かない
彼の背中を見送った時、
言葉に出来ない寂しさが
込みあがったものだった。
((忙しいのは分かるよ。
でも、せめて
“おはよう”くらい))
会話までは望めなくても、
挨拶程度なら
交わせると思っていたのに。
夫は終始無言だった。
私が起きているのには
気づいていたと思う、
でもこちらを
ちらっとも見なかった。
よほど急いでいたの?
そんな事が、何日も続いた。
最初は、彼も
そう言っていたし、
これは仕方が無いと
自分に言い聞かせる事が
出来ていた。
でも、三か月目に入ると、
いつ落ち着くのか
見当もつかない
異常なくらいの多忙ぶりに、
だんだん苛立ってきた。
この頃には期待するだけ
無駄だという、
一種の諦めも心に
湧き始めた。
イライラ感としょうがない。
二つの感情が、
私の中で葛藤するように
なっていた。