ただひとつだけ、
心配なことがあった。
コテツがカナメを嫌うのだ。
初対面からして唸り声を上げて
威嚇をしていた。
私が叱ると、
すぐに大人しくなるのだけど、
一向にコテツはカナメに
慣れない。
コテツは人見知りでもなければ
我儘な犬というわけでもない。
近所でも、「賢い子」や
「躾が良くできたワンちゃん」
とよく褒められる。
犬が苦手でも、
「コテツちゃんなら大丈夫」と
撫でて可愛がってくれる人も
いるくらいだ。
それなのに、コテツの
カナメへの態度は
頑ななままだった。
カナメ
「おい、お前の犬!
さすがに躾が
なってないんじゃないか?」
キクノ
「本当にごめんねぇ。
もしかしたら、家族以外の人で
初めて寝泊まりしてるから、
焼き餅を
焼いてるのかもしれない」
カナメ
「ああ、そういう?
まあ、それなら仕方ないな。
頼むから慣れてくれよ、
ワン公ww」
コテツ
「うぅ~…。ワン!」
カナメが撫でようとしても、
コテツは
拒否するように吠えたてた。
私はなるべく
カナメとコテツが
鉢合わせないよう、
部屋のレイアウトを
考えて変更した。
もちろん、コテツの世話は私が
ひとりでやった。
こんな状態のコテツをカナメに
任せるわけにはいかないから。
そうやって住み分けることで、
我が家の平穏は保たれていた。
同棲期間も半年を過ぎた頃、
カナメは両親に
私を紹介してくれた。
カナメ
「俺の彼女のキクノ。
結婚を前提に付き合ってて、
今、キクノの家で
一緒に住んでる」