映像では、司会役を
引き受けたらしい夫が、
静かに議事を進行している。
途中で、騒ぎが起きた。
サトルは顔を青ざめさせ、
モエカは「え?」と
うめいた後、
逆に真っ赤になって
何か喚いている。
夫は、ずっと冷静。
まるで聞き分けのない
子供へ言い聞かせるような
口調で、こう言った。
夫
「違いますよ。
サトルさんは、いわゆる
跡継ぎではありません。
次の社長は専務です。
たったいま、
賛成多数により
可決されたでしょう」
昔なら、確かに跡継ぎは
長男だった。
でも今は違う。
法人になった株式会社は、
取締役会や株主総会の
「議決」を経て、
社長を決定する。
どの会社でも同じ。
父の遺書があったとしても、
否決されたらそれまでだ。
無理を通しまくって
人望が無かったサトルは、
見事に社長就任を
否決されたのだった。
夫
「社長は、正式には
『代表取締役』だからね。
取締役の一種なんだから、
選出方法に例外は無いよ」
彼は静かに笑った。
私も笑みがこぼれた。
誰かと違って、
夫は有能だ、と。
終わり