私はキヌ子。
33歳、1つ年上の夫とは、
まだ結婚まもない。
婚約してからが
少し長かった。
理由は、私実家の
家庭事情にある。
夫は事情を
理解してくれていて、
結婚まで時間がかかる事も
夫
「分かっているよ。
俺は急がない。
おじいさん、
元気になるといいな」
静かに受け入れてくれた。
本当に、心から
申し訳なかったし、
またありがたくもあった。
事情というのは、
私の実家は、
父方に遺伝性の持病が
あるということ。
父も祖父も、
同じ病気で
よく寝込んでいる。
父は若いころから
病気がちだったが、
祖父から受け継いだ家業を
発展させて、今では
従業員200人を越える、
そこそこ名が通った
株式会社にまで育てた。
猛烈に働いた人だ。
その無理が
たたったのだろう。
50歳を境に、しばしば床に
臥せるようになった。
少し弱気に
なったかもしれない。
男の子の跡継ぎに
強くこだわるようになり、
必然的に2歳年下の
弟サトルに期待がかかった。
私には、別の意味の
期待が寄せられた。
病気がちの祖父と父の
面倒を看る、
介護役としての期待だ。