父
「真夜中に女性と乳飲み子を
放り出すなんて、それこそ
無責任極まりない話だろ!
おまけに甲斐性なしときた。
私たちはキヌ子を
君に返すことはない!」
夫
「僕だって
やれるだけのことはしようと、
仕事に打ち込んでましたよ。
それに、本当に出ていくなんて
思わなかったんです!」
私
「帰って来るな、とも言ったわ!」
夫
「売り言葉に買い言葉だと
思ったんだよ!
すぐに帰ってくると思っていたんだ!
それなのにキヌ子は意地を張って、
いつまでも、いつまでも…」
何とも苦しい言い訳を夫は続けていた。
父は夫の言い分が全く理解できずに、
未知の生物でも見るかのような
目をした後、首を横に振った。
父
「本当に出ていくと
思っていなかったのなら、
キヌ子が荷物をまとめていたところで
引き留めればよかっただけ。
でも君はそれすらしないで
寝たというじゃないか。
そんな人を信用できるとでも?」
父の重たい声に、
夫は真一文字に口をつぐんだ。
父
「夜中に放り出された
娘と孫を助けて何が悪い。
どこが甘やかしだ!?
文句があるなら、ホラ、
この場で全部言ってみろ」