真鈴
「死ぬ前にあの人に
縋りたい気持ちは
わからなくないですけど!
私との時間をこれ以上
奪わないでくださいね!」
私
「あの…失礼ですけど、
おいくつですか?」
真鈴
「29になりました。
奥さんの年齢はあの人から
聞いてますけど、思ったより
ずっと小綺麗でビックリしました」
嫌味だと思ったら、
目がキラキラしていて本気で
感心しているのがわかった。
そりゃそうだ。
女性向けの雑誌の
編集者なんだから、身嗜みや
美容にだって気を配って
来たんだもの。
それはそうとして、
この子、ダメだ。29にもなって
こんな思考回路。
善悪の区別がついていないし、
訴えられたら
不利になるのがわかっていない。
デッカイ子供だ。
夫との歳の差にも驚いたが、
天然にしてはひどすぎる
頭の出来によってショックが
上書きされてしまった。
夫は頭が回るタイプの女性より、
少し抜けているくらいが
可愛いと思う人種なのだろう…。
不倫相手は彼女の恋愛観に
ついて自己陶酔したように
ペラペラと喋っていた。
私は熱心に聞くフリをして、
住所や本人と親の勤め先などを
聞き出した。
こっちは慰謝料請求のために
聞いてるんだけど、そんなことは
微塵も思い至らないらしい。
真鈴
「本日は
ありがとうございました。
楽しかったでぇす」
いや、この子は一体
何をしに来たのだろう。