油断すれば嗚咽を
漏らしそうだったけれど、
気力で何とか最後まで
自分の気持ちを言い切った。
ポン、と温かい手が
震える私の肩に置かれた。
ヤスノリ
「キヌ子ちゃん、
心配しなくていいから」
顔を上げると、柔和な笑みを
浮かべたヤスノリさんの
顔があった。
その優しい声音に、却って
涙が次々と溢れてしまう。
ヤスノリさんはくるりと
夫を振りむくと、
見たこともないような
厳しい表情を浮かべた。
ヤスノリ
「仕事が
なくなるのは!お前だよ、
アキノリ!」
さすがあの義父の長子。
先ほどの義父の一喝に
負けないくらいのド迫力で、
その場の空気が一気に
ピリッと引き締まった。
私の涙も引っ込んだ。
アツコさんがそれに続く。
冷静で落ち着いた声が、
ヤスノリさんとは
別種の迫力だった。
アツコ
「キヌ子ちゃんは
離婚しても、うちの会社で
今まで通り
仕事をしてもらいます。
建築デザインに特化した
新部署を立ち上げるので、
そこの部長に就任してもらう
予定です」
え!?私が部長!?
夫
「え!キヌ子が部長!?」
同じことを夫も思ったようだ。