タツヒロ
「私の店もおかげさまで
多くの人に認知されまして、
雑誌の取材やインフルエンサーも
紹介してくれるほどに
なってきました。
そういったこともあって、金銭的な
理由で私の子として
妻は産みたかったんでしょう」
爽やか風に笑っていた
タツヒロさんだったけど、
目だけは冷徹な色をしていたのが
本当に怖かった。
タツヒロ
「私は妻にも子どもにも
苦労を掛ける気は
ありませんでした。
そのために仕事に
打ち込んでいたんですから。
それなのに既婚者と
関係を持つだなんて」
そう言って、夫を睨む。
タツヒロ
「許せないと
思いましたよ」
重く響く声に、夫は震えあがった。
タツヒロ
「本日はここで
お暇させてください。
今後の話は弁護士を通じ
て連絡させていただきます。
あ、お騒がせしたお詫びと
言っては何ですが、
割引券をお渡ししますね」
そういうとタツヒロさんはスマホを
取り出して電話を掛け始めた。
タツヒロ
「あ、俺だけど。
割引券を車の中に
置いて来ちゃったんだよ。
悪いけど持って来てくれるか。
玄関じゃなくて縁側の方ね、うん」
夫も義実家のメンバーも
沈痛な雰囲気のまま、
タツヒロさんが電話を掛けた相手を
待っていた。
すると縁側から場違いに
明るい声が響く。