娘
「ママ、おひるごはんは?」
私
「あ、ごめんね。
もう少しだけ待っててくれる?」
仕事に集中して、娘のことを
後回しにしてしまうことがある。
そんな時、実家のことを思い出す。
母は仕事をしていなかった。
それなのに、私や弟の面倒は
ろくに見てくれなかった。
お金の無心ばかり。
この子には、絶対に
寂しい思いをさせない——。
そう心に決めて、
毎日を過ごしていた。
娘が5歳になったある日のこと。
突然、実家から
電話がかかってきた。
母
「トウ子?久しぶり。
元気にしてる?」
私
「…はい。どうかしました?」
母
「いや、特に何も。ただね、
孫の顔が見たいなぁって思って」
10年以上ぶりの母の声。
懐かしさと共に、背筋が凍る。
母
「それで、たまには
帰ってこない?
みんなで会えたらいいなぁって」
私
「…考えておきます」
受話器を置くと、
胃の辺りが重くなった。
確かに、娘を実家に
連れて行ったことはない。
両親にとっては、初孫なのだ。
でも、本当に孫に会いたい
だけなのかな…。
疑いの種が芽生える。
過去の経験から、両親の言葉を
そのまま受け取れなかった。
その夜、コウスケに打ち明けた。
私
「ねぇ、実は今日
実家から電話があって…」
コウスケ
「へぇ、珍しいね。
で、何て?」
私
「孫の顔が見たいって。
帰省しないかって
言われたんだけど…」
コウスケ
「トウ子はどうしたい?」
私
「正直、迷ってる。両親のことは
信用できないけど、
娘のことを考えると…」