モラハラ

モラハラ夫の成れの果て…【26話】

 

イチロウ「私がこの仕事を

選んだのには理由があります。

私の父も酒乱で、母は

苦労の末に亡くなりました。

その時、理不尽に

耐える人々を救いたいと強く

思ったんです。」

 

彼は私を見つめ、続けた。

 

イチロウ

「キヌ子さん、

あなたの姿に母の面影を

見たんです。

この仕事は、苦しむ人々への

恩返しだと思っています。」

 

イチロウの言葉に、

部屋の空気が

一瞬凍りついたように感じた。

 

ヒュウガの罵声も、

ケミのすすり泣きも止んだ。

 

私は胸が熱くなるのを感じた。

 

イチロウ弁護士の話を

聞き終えた後、部屋は静寂に

包まれた。

 

夫のヒュウガは、

もはや反論する気力を

失ったようだった。

 

彼は黙って書類に目を通し、

ペンを手に取った。

 

「ここに署名すれば

いいんだな」

 

ヒュウガがサインを

済ませると、

私は用意していた印鑑を

差し出した。

 

それを見て、

夫は小さく呟いた。

 

「用意がいいんだな」

 

そう言って、

黙々と押印していった。

 

一方、アケミは顔を

両手で覆ったまま、

小さな声で繰り返していた。

 

アケミ

「ごめんなさい、

ごめんなさい…」

 

フク弁護士が

優しく声をかけた。

 

フク

「慰謝料の件、

理解していただけましたか?」

 

アケミは顔を上げ、

涙目で頷いた。

 

アケミ

「はい…支払います。

本当に…本当に!

申し訳ありませんでした」

 

手続きが全て終わると、

ヒュウガとアケミは別々に

部屋を後にした。

私は深い安堵の溜息をついた。