イヤホンを通して、廊下を
歩く足音が聞こえてきた。
そして、聞き覚えのある声が…
フク
「お客様、
こちらでございます。
本日の特別会場に
ご案内させていただきます」
私は思わず息を呑んだ。
フク弁護士の声だ。
仲居さんに扮している。
ジロウさんが小声で
説明してくれた。
ジロウ
「フク先生なら、
証拠として最も有効な状況を
判断できますからね。
それに、万が一の
トラブルにも対処できる」
フク弁護士の機転と勇気に
感謝しつつ、これから起こる
出来事に身構えた。
夫
「おお!いよいよだな」
アケミ
「ねえねえ♪
ヒュウガ君♪
私、ワクワクしてきちゃった」
ヒュウガ・アケミ
「まっぐろ♪まっぐろぉ♪」
その歌声に、私は
苦笑せざるを得なかった。
こんなにも上機嫌な
夫の声を聞くのは久しぶりだ。
複雑な思いを抑えつつ、
私は聞き続けた。
フク
「では、こちらが
本日の会場でございます」
襖の開く音。そして…
夫
「え?」
アケミ
「あれ?」
二人の声に戸惑いが混じる。
夫
「おい!なんだよこれ!
マグロ料理は?」
アケミ
「マグロづくしの
コースって聞いてたんだけど…
なにこれ?」