廊下を進む二人の後ろ姿を
見送りながら、私は胸が
締め付けられる思いだった。
ジロウ
「ここからは
音声に頼るしかありませんね」
ジロウさんがイヤホンを私に
手渡した。
夫の部屋からの音声が
聞こえ始める。
従業員
「こちらが
お二人様のお部屋となります。
お部屋からは日本海の絶景を
お楽しみいただけます」
夫
「おお!すげえな!」
アケミ
「わぁぁ!素敵!」
従業員
「お部屋にはマグロを
モチーフにした装飾品も
飾られております。
お風呂は源泉かけ流しの
露天風呂となっており、
こちらもマグロをイメージした
『ツナ風呂』と
なっております」
アケミ
「ツナ風呂?
なにそれw面白いね!」
説明を聞きながら、
私は複雑な思いに駆られた。
かつては、こんな素敵な旅館に
夫婦で来ることを
夢見ていたのに…
ツナツナ邸の豪華さと、
そこで過ごす夫と浮気相手。
その対比が、私の心をさらに
痛めつけた。
でも、ここで諦めるわけには
いかない。
真実を明らかにするため、
私は静かに耳を澄ませ続けた。
時間が経ち、いよいよ
夕食の時間。
この頃には、夫は既に
部屋付きのお酒を
かなり飲んでいた様子。
部屋のドアを
ノックする音が聞こえた。
フク
「失礼いたします。
お客様、お食事のご用意が
整いました」
夫
「おう、わかった」
アケミ
「ねえ、ヒュウガ君。
随分お酒が
回ってるんじゃない?
大丈夫?」
夫
「へへ、大丈夫だって。
さぁ、マグロだ!」
私は深呼吸をした。
ここからが正念場だ。
ジロウさんと顔を見合わせ、
静かに頷いた。