私
「そう、あのツナツナ邸よ。
夕食はマグロの
フルコースなんだけど…」
ヒュウガの目が輝き始めるのを
見て、さらに続けた。
私
「それで、母がこっちに
出てきて息子を
預かってくれるって。
だから私と2人きりの
旅行になるんだけど…」
言葉が終わる前に、ヒュウガは
立ち上がり、大声で叫んだ。
夫
「おおおおお!行く!
行くに決まってる!
しかもお前、マグロだぞ!
うおおおおお!
有給でもなんでも
もぎ取ってやる!」
突然の大声に、隣の部屋で
遊んでいた息子が
顔を覗かせた。
ヒュウガはそんなこと
お構いなしに、
私の腰に手を回し、
抱き上げて部屋の中を
くるくると回り始めた。
夫
「よくやった、
よくやった!!
キヌ子、お前最高だよ!」
私は突然の出来事に
戸惑いながらも、久しぶりの
夫の笑顔に複雑な
気持ちになった。
息子はポカンと
その様子を見ている。
ああ、昔はこんな風に
私のことを
扱ってくれてたんだよね…
懐かしさと寂しさが
胸に込み上げてきた。
夫
「よし、明日早速会社に
連絡して休暇を取るぞ!」
私
「うん、分かった…」
夫の興奮が冷めやらぬ中、
私は静かに微笑んだ。
旅行の3日前、久しぶりに見た
夫の心からの笑顔に、
一瞬、心が揺らいだ。
でも、すぐに
気持ちを引き締める。
深呼吸をして、
申し訳なさそうに切り出した。