モラハラ

モラハラ夫の成れの果て…【14話】

 

「そう、あのツナツナ邸よ。

夕食はマグロの

フルコースなんだけど…」

 

ヒュウガの目が輝き始めるのを

見て、さらに続けた。

 

「それで、母がこっちに

出てきて息子を

預かってくれるって。

だから私と2人きりの

旅行になるんだけど…」

 

言葉が終わる前に、ヒュウガは

立ち上がり、大声で叫んだ。

 

「おおおおお!行く!

行くに決まってる!

しかもお前、マグロだぞ!

うおおおおお!

有給でもなんでも

もぎ取ってやる!」

 

突然の大声に、隣の部屋で

遊んでいた息子が

顔を覗かせた。

 

ヒュウガはそんなこと

お構いなしに、

私の腰に手を回し、

抱き上げて部屋の中を

くるくると回り始めた。

 

「よくやった、

よくやった!!

キヌ子、お前最高だよ!」

 

私は突然の出来事に

戸惑いながらも、久しぶりの

夫の笑顔に複雑な

気持ちになった。

 

息子はポカンと

その様子を見ている。

 

ああ、昔はこんな風に

私のことを

扱ってくれてたんだよね…

懐かしさと寂しさが

胸に込み上げてきた。

 

「よし、明日早速会社に

連絡して休暇を取るぞ!」

 

「うん、分かった…」

 

夫の興奮が冷めやらぬ中、

私は静かに微笑んだ。

 

旅行の3日前、久しぶりに見た

夫の心からの笑顔に、

一瞬、心が揺らいだ。

 

でも、すぐに

気持ちを引き締める。

深呼吸をして、

申し訳なさそうに切り出した。