フク
「いえいえ、ご心配なく。
先日ご依頼いただいた時に
お話ししたように、
追加料金なんて
掛かりませんよ。」
フク弁護士は
少しおどけた口調で言い、
緊張していた私の肩の力が
少し抜けた。
イチロウ
「そういえば、
先ほどのお話で旦那さんの
浮気の証拠は押さえていないと
仰ってましたよね」
カツベ弁護士が突然、
話題を戻した。
私
「はい…お恥ずかしながら、
そういったことには
気が回りませんでした」
申し訳ない気持ちで、
思わず目を
下に向けてしまった。
イチロウ
「責めているわけでは
ありませんよ。
ただ、もし証拠があれば有利に
なりますから…
それなら上の階の探偵に
素行調査を
依頼するのはどうですか?」
私
「探偵ですか…
そういう方法もあるんですね」
少し驚きつつも、
興味を持って聞き返した。
フク弁護士が穏やかな笑みを
浮かべながら
説明をしてくれた。
フク
「そうなんです。
実は、さっき事務所に
入ってきたのはカツベ先生の
弟のジロウさんなんです。
彼が上の階で探偵事務所を
営んでいるんですよ」
私
「そうだったんですね。
でも、探偵さんに
依頼するって…」
イチロウ
「うちの弟、
腕は確かですよ。もちろん、
強制ではありません。
ただ、選択肢の一つとして
ご検討いただければと」
カツベ弁護士は穏やかに、
でも自信を持って言った。
私は少し考え込んだ。
確かに証拠があれば
有利になるだろう。
でも探偵を雇うなんて…
現実味がなく、
少し戸惑いを感じた。