私
「はい…私、
決心がつきました。
お二人にお願いしたいです」
フク弁護士とカツベ弁護士は
互いに顔を見合わせ、
そっと頷いた。
イチロウ
「分かりました。
キヌ子さんの
新しい人生のために、
私たちにできることを全力で
支援させていただきます」
事務所を出る準備をしていた
私の心は、不安と希望が
入り混じった複雑な
思いでいっぱいだった。
でも、初めて訪れた時とは
明らかに違う。
今の私には、前を向いて
歩き出す勇気があった。
フク弁護士が優しい香りの
ジャスミンティーを
淹れてくれ、その香りに
包まれてほっと一息ついた
その時だった。
突然、事務所のドアが
ノックもなく開いた。
ジロウ
「兄貴、入るよ~。
例の件の報告だけど…」
中年の男性が顔を覗かせたが、
私の姿を見るなり慌てた様子で
言葉を切った。
ジロウ
「あ!失礼しました。
改めますね」
そう言うと、素早くドアを
閉めて去ってしまった。
その慌ただしさに、
思わず苦笑してしまう。
ふと壁に掛かった時計に
目をやると、予定の相談時間を
20分も過ぎていた。
私
「あ!!もうこんな
時間ですね。
次のご予定もあったのに、
申し訳ありませんでした。
追加料金は…」
私は思わず
財布に手をやったが、
フク弁護士は優しく手を
振って制止した。
依頼を引き受けてくれてから
初めての追加相談だったので、
料金のことが
気になっていたのだ。