モラハラ

モラハラ夫の成れの果て…【1話】

 

私は30歳のキヌ子。

パートタイムで働きながら、

2歳になったばかりの子どもの

世話をする主婦だ。

 

結婚して間もなく妊娠したが、

その頃には夫、

ヒュウガの本性が

見え始めていた。

 

実家は遠く離れた地方にあり、

そこには介護が

必要な祖父がいた。

 

私は大きなお腹を抱えて

夫から逃げ出すことは

できないと判断してしまった。

 

今思えば、それが私を

この状況に縛り付けた

理由だったのかもしれない。

 

夫のヒュウガは、

不貞を隠そうともしなかった。

 

むしろ、堂々と他の女性たちと

関係を持ち、遊び歩いていた。

 

決定的な証拠はなくとも、

彼が帰宅するたびに漂う

見知らぬ女性の香水の香り、

家にはないはずの

ボディーソープやシャンプーの

匂いが、その事実を

否応なく突きつけてきた。

 

特に妊娠初期の悪阻の時期は、

あらゆる匂いに

過敏になっていた私にとって、

それらの香りは

拷問のようだった。

 

ある日、我慢の限界を超えて、

おずおずと夫に尋ねてみた。

 

「あの…最近、うちとは

違う香りがするんだけど…」

 

すると、

ヒュウガの表情が一変した。

 

「は?何だ?

お前に文句を言われる

筋合いはねぇんだよ。

お前さ!誰のおかげで

生活できてると思ってんだよ!

アァ!?」

 

彼の怒鳴り声に、

私は体が縮こまるのを感じた。

 

経済的自立の難しさ、

頼れる実家の遠さ、

そしてまだ手がかかる

2歳の我が子。

 

これら三重の鎖が、

私の足を縛り、逃げ出す勇気を

奪っていった。