モラハラ

病気が見つかり夫に見捨てられた私【5話】

 

「こんにちは。

どうしたのかな?」

 

女の子はしばし口を噤んだ後、

ポツリとこういいました。

 

ナナ

「ママは?ママが

このお部屋にいたのに」

 

それはつまり、

私が入院する前は女の子の

お母さんがこの部屋で

このベッドを

使っていたということ。

 

であればどうなった?

退院したのなら、

女の子が知らないはずがない。

 

だとすると…。

 

暗い考えが頭を過ぎった。

私が何も言えずにいると、

キュッと引き結んだ女の子の

唇がワナワナと震え出した。

 

ナナ

「ママ…!

ママに会いたい」

 

心細さか寂しさか、

ポロポロと涙をこぼす女の子。

その様子に私まで

鼻の奥がツンとしてしまった。

 

この小さな女の子にも

残酷な現実が

突き付けられている。

 

私には子供がいないけれど、

こんな可愛くてか弱い子を

残して旅立たねばならなかった

この子の母親の胸中を思うと、

胸が張り裂けそうだった。

 

同時に、つい先ほどまで

投げ槍になって自分の命すら

粗末にしようとしていた

自分が恥ずかしくなった。

 

私はベッドから抜けて

女の子のそばに

しゃがみこんだ。

 

そういえば、私が大泣きした

時は母が優しく背中を

ポンポンとしてくれたっけ。

 

幼い頃を思いだしながら、

私も同じようにその子の背中を

ポンポンと軽く叩いていた。