初の「アンタ」呼びに驚いたのか、
けんもほろろな態度に
取り付く島もないと悟ったのか、
夫はそれ以上何も言わなかった。
夫を置き去りにした私たちは、
近所の居酒屋に向かった。
居酒屋の喧騒の中なら
本妻と浮気相手という緊張感が
薄れてくれるかもと
期待したのだ。
席に通されてもマホは
項垂れたままだった。
私
「好きな飲み物はなに?
私はビールにするけど、
あなたは?
カクテルの方がいい?」
マホ
「私も、ビールで…、
あっ、ビールがいいです…」
緊張していたようだが、
小さな声で返してくれた。
彼女が
「ビールで」
と言いかけて
「ビールが」
と言い換えたことに
何故か好感度がアップした。
私がビールに口をつけても、
固まったままのマホ。
私は半ば強引にグラスを
合わせて乾杯の形にし
私
「ささ、女同士飲みましょ」
アルコールが入って
少し緊張がほぐれたところを
見計らい、私は二人の馴れ初めや
夫がどのように彼女を
騙していたのか聞き出した。
マホはカフェの
アルバイトスタッフで、
夫がそこに通ううちに
親しくなった。
優しく人当たりの良い性格に
惹かれたこと。
結婚の話をされて嬉しくて
舞い上がってしまったことなどを
話してくれた。